同じ「鍼灸」でも治療効果が違うのはなぜ?|治療家によって変わる鍼灸の技術

「以前、鍼灸を受けたことがありますが、痛いだけであまり効果を感じませんでした」
初めて来院される患者さんから、このようなお話を聞くことがあります。
そんなとき、私は少しもったいないなと思います。
なぜなら、一度受けた鍼灸治療の結果だけで「鍼灸は効かない」と判断してしまうのは、鍼灸そのものの可能性を判断するには早い場合があるからです。
同じ「鍼灸師」という国家資格を持っていても、治療の考え方や技術、経験は治療家によって大きく異なります。
今回は、一般の方にはなかなか分かりにくい「治療家による違い」についてお話しします。
同じ鍼灸でも、実際に行っていることはかなり違います
一般の方から見ると、鍼灸院で受ける治療はすべて同じ「鍼灸」に見えると思います。
しかし実際には、鍼灸にはさまざまな治療法があります。
経絡治療を中心に行う先生もいれば、筋肉を中心に治療する先生、痛みのある場所を中心に治療する先生など、その考え方はさまざまです。
さらに、同じ経絡治療を学んでいる治療家同士であっても、実際の治療はまったく同じにはなりません。
なぜなら鍼灸治療には、
- 身体の状態を見極める力
- 脈やお腹などから情報を読み取る力
- 症状の原因を考える力
- 適切なツボを選ぶ力
- 鍼を正確に扱う技術
- 刺激量を調節する技術
- 治療後の変化を確認する力
など、さまざまな技術が必要だからです。
「どのツボに、どのような鍼をするのか」。
その判断と技術によって、身体の反応も変わってきます。
同じ粘土を渡しても、出来上がる作品は違う
私は鍼灸の技術について、粘土細工に例えると分かりやすいと思っています。
たとえば、何人かにまったく同じ粘土と道具を渡して、
「人の顔を作ってください」
とお願いしたとします。
材料は同じです。
使っている道具も同じです。
しかし、小学生が作った作品と、長年技術を磨いてきた美術家が作った作品では、出来上がるものには大きな違いが出るでしょう。
これは粘土が違うからではありません。
同じ材料を、誰が、どのように扱うかが違うからです。
鍼灸にも、これと似た部分があります。
同じ「鍼」を使い、同じ「ツボ」という言葉を使っていても、
身体をどう診るか、どこを選ぶか、どの程度の刺激を加えるかによって治療は変わります。
だからこそ、同じ鍼灸でも治療家によって患者さんが感じる刺激や治療後の変化には差が生まれます。

「鍼灸が効かなかった」とは限らない
以前受けた鍼灸が痛かった。
何回か通ったけれど変化を感じなかった。
そうした経験があれば、
「私は鍼灸が合わない」
「鍼灸は効かなかった」
と思ってしまうのも当然だと思います。
しかし、そこで知っていただきたいのは、
「そのとき受けた鍼灸治療で効果を感じなかったこと」と、「鍼灸という治療そのものに効果がないこと」は、必ずしも同じではない
ということです。
これは鍼灸師に限った話ではありません。
料理でも、美容師でも、スポーツの指導でも、同じ資格や同じ道具を使っていても、経験や技術によって結果には違いが出ます。
鍼灸も「鍼を刺せば誰がやっても同じ」というものではありません。
「痛い鍼=効く鍼」でもありません
もう一つ患者さんからよく聞くのが、
「以前の鍼はかなり痛かった」
という話です。
鍼にはさまざまな方法があるため、刺激の強い治療そのものを否定するわけではありません。
症状や治療法によっては、ある程度の刺激を必要とする場合もあります。
しかし、
「痛ければ効く」
「深く刺せば効く」
「たくさん刺せば効く」
という単純なものではありません。
特に当院が行っている経絡治療では、身体の状態を診て「証」を決め、適切なツボを選び、その方に合った刺激を行うことを大切にしています。
強い刺激を与えることよりも、
必要な場所に、必要な刺激を正確に行うこと
のほうが重要だと考えています。
経絡治療は「ツボを知っている」だけではできません
経絡治療では、
「肩こりにはこのツボ」
「腰痛にはこのツボ」
というように、症状だけを見てツボを決めるわけではありません。
同じ肩こりでも、その方の身体の状態によって選ぶ経絡やツボが変わることがあります。
脈やお腹、身体の状態などを確認し、その人の「証」を考えます。
そして、その証に対して適切なツボを選択して本治を行います。
つまり重要なのは、単にツボの場所を覚えることではありません。
身体から得られる情報をどう読み取り、どう判断して、どのツボにどのような鍼をするのか。
ここに治療家としての技術や経験が表れます。
治療家の技術は、資格を取ったところがスタート
鍼灸師になるためには国家資格が必要です。
当然、国家資格を取得するためには身体について学び、鍼灸の知識や技術を身につけます。
しかし私は、国家資格を取得した時点が治療家としての完成ではなく、そこからがスタートだと考えています。
実際の臨床では、教科書通りではない患者さんを毎日のように診ます。
同じ腰痛でも一人ひとり違います。
同じ肩こりでも違います。
身体の状態を診て、考えて、治療して、その結果を確認する。
そして、
「なぜ良くなったのか」
「なぜ今回は変化が少なかったのか」
を繰り返し考える。
その積み重ねによって治療家としての技術が磨かれていくのだと思います。
一つの鍼灸院だけで「鍼灸」を判断しないでほしい
もちろん、すべての症状が鍼灸で改善するわけではありません。
鍼灸より医療機関での検査や治療を優先すべき症状もありますし、どれだけ適切に治療しても期待した変化が出ないこともあります。
そのうえで、過去に一度鍼灸を受けて効果を感じなかった方には、
「一度の経験だけで、鍼灸そのものを嫌いにならないでほしい」
と思っています。
治療院が変われば、治療方法も変わります。
治療家が変われば、身体の診方も、ツボの選び方も、鍼の刺激も変わります。
最初に受けた治療が自分に合わなかったからといって、すべての鍼灸治療が同じとは限りません。
大切なのは「鍼灸を受けたか」だけではなく「誰から、どのような治療を受けたか」
一般の方から見れば、どの治療院も同じ「鍼灸院」です。
しかし、その中で行われている治療には大きな違いがあります。
同じ粘土と同じ道具を使っても、作り手によって作品が違うように、鍼灸も治療家の知識・経験・判断・技術によって治療内容や結果が変わります。
だからこそ、
「以前、鍼灸を受けたけれどダメだった」
という経験だけで、鍼灸そのものを判断してしまうのは少しもったいないことだと思います。
大切なのは、
「鍼灸を受けたことがあるか」ではなく、
「誰から、どのような鍼灸治療を受けたか」。
当院でも、毎回同じように鍼をするのではなく、その日の身体の状態を確認しながら治療を組み立てています。
治療家として学び続け、身体を正しく診る力と鍼の技術を磨いていくこと。
それが、患者さんにより良い治療を提供するために欠かせないことだと考えています。
